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水戸地方裁判所 昭和33年(ワ)188号 中間判決

原告 国

訴訟代理人 環直弥

被告 石塚力

主文

本件につき、弁護士環直弥が原告国の訴訟代理人としての訴訟代理権は有効である。

事実

被告代理人は、原告訴訟代理人の代理権は弁護士法第二十五条特に第一、二号により無効である。

即ち訴外藤岡博は、別訴(水戸地方裁判所昭和三十三年ワ第一三六号)において、本件被告石塚を被告として本件と同一基礎事実に基いて、本件において争いとなつている茨城県東茨城郡小川町百里字百里二百七番宅地百五十坪その他の不動産につき、所有権確認並に所有権移転登記抹消登記手続等の訴を起しており、原告訴訟代理人は、その訴訟代理人である。同代理人は、訴外藤岡、被告間の本件不動産の売買契約解除並に右藤岡と国との売買契約に際し、藤岡の協議を受けて賛助し又はその依頼を承諾しているか、或は少くとも藤岡の協議を受け、その協議の程度及び方法が信頼にもとづくと認められることは明らかである。弁護士法第二十五条一乃至三号に所謂相手方とは、訴訟法上に限らず、利害の対立する実体法上の権利関係の当事者をも包含することは論をまたない。売買は所有権の移動並にその対価の支払(無効又は解約等の場合はその回復等)等を伴うばかりでなく、本件訴訟では藤岡と国間の売買契約それ自体が無効であるか否かが一つの論点になるところであり、又藤岡、被告間の契約解除の成否は、更に藤岡と国との利害関係の対立を深めるものである。その権利関係の確定に至る紛争の過程である本件訴訟の原告の地位は、いわば弁護士法第二十五条一、二号の「相手方の協議を受けた事件」の当事者の中に含まれるものとみるべきである。又本件において原告訴訟代理人は、藤岡を代位して仮登記抹消の訴訟行為をなしている。仮登記抹消を求めるか否かは藤岡の権利の問題で、藤岡にとつては国との間でも重大な利害の対立となるのである。更に前記「協議を受けた事件」は実体法上も訴訟法上も未だ委任関係が継続しているものとみるほかない。

と述べた。

理由

弁護士法第二十五条に「相手方の協議を受けて賛助し又はその依頼を受け」或は「相手方の信頼関係にもとづき協議を受けた事件」等について弁護士の職務の執行を禁止しているのは、通常弁護士の受任する事件は概ね対立する当事者の紛争を前提とし、財産名誉等に重大な関係をもつところより、その当事者の利益を擁護すると共に、又正義の実現を使命とする弁護士自体の信用品位をも維持する趣旨と解せられ、その規定する相手方とは、現に相反する利害をもつ当事者間において或法律行為をなす場合、或は一定の紛争を前提とする法律上の利害相反する当事者を指すものというべきである。本件についてこれをみると、本件記録によれば、原告は、訴外藤岡と被告間の係争土地についての売買契約について、買受人被告にその代金債務の不履行があつたとして同契約は解除され、尚原告はい藤岡より同土地を買受けたことを主張して、被告に対し、所有権の確認と、係争物件のうち茨城県東茨城郡小川町百里字百里二〇五番、二〇六番の畑地につき被告のための停止条件付所有権移転仮登記の抹消登記手続を求めているものである。従つて、本件原告国の代理人である環直弥が本件につき、本件被告石塚力より協議を受けたというならば格別、訴外者の藤岡から協議を受けたとしても、右藤岡と国との間には弁護士法第二十五条に予定する利害の対立は認められないから、本件において環直弥が原告国の代理人となることは同条違反になるものとは解されない。勿論後日藤岡と本件原告等との間に本件係争物の売買について紛争がおこり、右紛争を前提とする利害の対立が生じた場合は、将に藤岡の利益を保護するため、弁護士法第二十五条の問題が生じ得る可能性はあるとしても、その際に同条を適用すれば足りるものであつて、本件のごとき場合は同条に該当しない。

又当庁昭和三十三年(ワ)第一三六号事件において、藤岡が原告となり、被告石塚を相手方として、本件において、原告国が所有権確認を求めている茨城県東茨城郡小川町百里字百里二百七番の宅地及び同所九十二番の二の原野について被告石塚のための所有権移転及び停止条件付所有権移転登記の抹消登記手続を求めているところ、同原告の代理人も又環直弥であることが認められるが、同事件においても本件と同様、藤岡、石塚間の売買契約の解除を理由として右売買を争つているものであり、且つ同事件の原告藤岡は同土地を本件原告国に売渡したことは自ら主張しているものであることは当裁判所に明かであり、尚その売渡した責任上、右登記の抹消を求めているものと推認されるから、同事件においても藤岡と国との間に弁護士法第二十五条の予定する利害の対立はみられない。

そうとすれば、本件原告国の代理人環直弥の訴訟代理権は弁護士法第二十五条に反することなく適法のものと解せられるから主文のとおり右代理権について中間判決をする。

(裁判官 大内淑子)

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